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田壮壮出演の『白塔之光』映画レビュー

90年代に『青い凧』で一世を風靡した第五世代の監督・田壮壮が映画出演していると聞き、見に行ってきました。

それにしても10月27日に劇場公開され、ほぼ1週間で主な映画館での上映がほぼ終わってしまうという…

大型ヒット作ばかりにリソースが集中する中国のシネコンのありかたはなんとかしてほしいなあと。単館上映の映画館の許可が下りないので、あとは映画祭くらいですよね。

 

映画は今年の春に1カ月、北京で撮影された物語。

「白塔」が印象的です。

 

「白い塔には影がない。

 あるけれど、遠くチベット高原に出る」

 

夜、白い塔の下を歩いていた2人には影がない。

抱き合った時に、影が出て濃くなる…。

 

 

【あらすじ】(ネタバレあり)

 

ファーストシーンは、お母さんのお墓参りから。

メンバーは主人公のしがない中年男性・谷文通(辛柏青演じる。写真の右から2番目)と小学生くらいの娘、そして姉と姉の夫の4人。 

聡い娘は道中、いろいろなクイズを出します。

「ゼロ割るゼロは?」

「8だよ。上と下に0があるでしょ」

きびきびとした姉は、形式どおりの墓参りを数分でさっさと切り上げます。

1時間以上もかけて来たのにと、男性陣は少々辟易気味。

姉の発言から、両親は離婚していて、父親がひどい人だったことが伝わってきます。

そして、谷文通自身も離婚していて、娘は普段、姉夫婦が預かって育てていることも。

 

物分かりのよさそうな義兄が、谷文通にそっと長年音信不通だった父親の連絡先を渡します。

「実はお父さんは、毎年何日も自転車にのって、家族の様子を見に来ていたと」

 

映画は、谷文通と長年音信普通だった父との物語が一つの軸として進んでいきます。

その父親役が、田壮壮です。

谷文通が子供の頃に、父親は酒を飲んだ仕事帰りのバスで、「痴漢」をしたと訴えられます。父親は認めなかったことがより悪く評価され、1年間の労教へ。

母親はそんな父親を許せず、家から追い出します。

家族はそれ以来父親に会うこともなく、父親は年老いるまで一人暮らしを続けています。

息子に教えるために始めた凧あげが、唯一の趣味。

一人暮らしでもいつも部屋はきれいに整理されていて、とても几帳面で真面目な性格であることがわかります。

きちんと布団も畳まれ、片付いた部屋に、家族写真が飾られていることが切なく。

痴漢も実は冤罪だったようですが、すでに痴漢を訴えた女性は病死していて…

 

↓来るかもしれない息子のためにタバコを買うシーン。

携帯電話を使わない父親は、現金で支払います。

店員はまだ預かってる分があるから、いいよといいますが、まじめにお金を渡し。

 

そしてもう一つの物語の軸は、谷文通と一回りも年の違う女性カメラマン・欧陽文慧(黄尧が演じる)との微妙な関係。

谷文通はとにかく「客気」(遠慮がち)な性格。

「不是那个意思,不好意思」(そういう意味じゃないんだ、すまない)

が口ぐぜ。

王陽に「どういう意味よ」と突っ込まれます。

 

谷文通「那个也客气做不了」(妻とはアレも遠慮でできなくなったと性生活がなかったことを告白)

王陽「那该离了」(それは別れるしかないわね)

 

2人はうろうろした末、胡同の中のホテルに行き、ガムを噛んで緊張して待っていた谷文通ですが、「何もしないで、一緒にいるだけで」と言われ…

実は彼女は孤児で、広東省の養父母に引き取られたという過去があることが分かります。

 

谷文通は母親が残してくれた家に住み、一部屋をモデルを目指す若者に貸しています。

モデルのバイト代ももらえず、かといってののしることもできない気の良い青年に「ハグしていい?」と聞かれ、そっと抱きしめる谷文通。

みんな北京で生きづらさを抱えています。

谷文通の飲み屋での同窓会では、6人が集まり、男性5人は全員離婚していて、唯一の女性は未婚のままという。

なんだかこれもリアルなのかなと。

同窓会では、パリの同級生ともオンラインでつながり、一緒に青春の歌で盛り上がるのですが、ラスト近くになり、その同級生が自殺したと。

伝えに来たのは独身だった女性。ずっと彼が好きだったままだったという。

 

映画は144分あるので、かなりエピソードがボリューミーです。

(なかなかいい映画でしたが、終わるかなと思って、なかなか終わらなかったという印象も)

 

かつて詩を書いていた谷文通は、娘に本を読みきかせ。

その後、谷文通の元妻であり、娘の母親の物語も描かれ…

元妻はガンで余命あとわずかだと知り、病院に会いに行きます。

元妻が先に浮気をして、離婚。娘にはずっと罪悪感を抱えていたと…

 

元妻の彼は韓国語教師で、別れ際 谷文通に「サラン」という韓国語を教えます。

それは韓国語で「愛」だけれど、ウイグル語では「バカ」という意味だそうで。

 

父親との再会は、あったのかなかったのか。

父親の部屋で、一緒に社交ダンスを踊るシーンも、現実だったのか白昼夢だったのかどちらともとれるような描き方でした。

 

ラストシーンは、雪が降る中でたたずんでタバコを吸っていた谷文通から白い塔へパーンアップし、そこからまた下りてくると父親に変わっているという。

現実と幻想がクロスするような仕立てでした。

主人公のしがない中年男性・谷文通を演じた辛柏青はどこかで見たことあるなあと思ったら…

『妖猫伝』(空海-KU-KAI- 美しき王妃の謎)で李白を演じた人ですね!

 

張律監督:

1962年5月30日生まれ

中国吉林省延吉市出身の映画監督。朝鮮族3世。

日本を舞台にした映画『福岡』なども制作。

 

 

『白塔之光』

英語名:The Shadowless Tower

出品:峨眉電影集団有限公司、北京南吉影業有限公司、江西電影集団有限責任公司、内蒙古電影集団有限責任公司、上海三次元影業有限公司、上海鏡曰影業有限公司

撮影期間:2022年3月7日 ~ 2022年4月7日

撮影地:北京

 

監督/脚本:張律

出演:辛柏青、黄尧、田壮壮、南吉、

   如花(胡同で出演した猫の名前がエンドロールに出ていました)

映画尺:144 分

中国公開日:2023年10月27日

 

出品の会社にも「南吉」の名前が入っていましたが、本人役で映画にも出演。

写真の右(手前)が南吉(ナンジ―)さん。

役者であり、プロデューサーでもある彼女は、12歳で中央民族大学舞踏科に合格、16歳に北京電影学院の演劇科に合格、そして仕事をしながら北京大学の芸術科の大学院へという才女です。

映画ではちょっと目立ちすぎなくらい素敵な先輩カメラマン役でした。